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名古屋地方裁判所 平成5年(ワ)3505号 判決

原告

小澤英治

被告

酒井吉徳

ほか二名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金九八〇九万〇三八二円及びこれに対する平成二年一〇月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その二を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、各自金二億二九五〇万一七三一円及びこれに対する平成二年一〇月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、自動二輪車を運転して道路を走行中、普通乗用自動車と衝突して負傷した原告が、同車両の運転者である被告酒井吉徳(以下「被告吉徳」という。)に対し民法七〇九条に基づき、同車両の保有者である被告酒井桂及び被告酒井信江に対し自賠法三条に基づき、それぞれ損害賠償を請求した事件である。

一  争いのない事実等(証拠を示した部分以外は、争いがない。)

1  本件事故の発生

(一) 日時 平成二年一〇月一五日午後九時四〇分ころ

(二) 場所 名古屋市千種区谷口町五番三五号先道路上

(三) 加害車両 普通乗用自動車(尾張小牧五八す七五八三)

同運転者 被告吉徳

(四) 被害車両 自動二輪車(名古屋ら八九六七)

同運転者 原告

(五) 事故態様 片側三車線の道路の第二車線を西へ向かい進行していた加害車両が、右折禁止の交差点(以下「本件交差点」という。)を右折しようとして、バスレーンである第三車線に進入した後、急停車したため、右第三車線を西へ向かい進行していた被害車両が加害車両に衝突した。

2  責任原因

(一) 被告吉徳について

被告吉徳には、右折禁止の道路標識に気付かず、かつ、第三車線の安全を全く確認せずに第二車線から右折を開始し、本件交差点中央で急ブレーキをかけて停止した過失がある。

(二) 被告酒井桂、同酒井信江について

被告酒井桂、同酒井信江は、いずれも加害車両の保有者である。

3  原告の受傷、入院状況及び後遺症

(一) 原告の受傷

原告は、本件事故により、第七、八、九胸椎脱臼骨折、左足関節果部骨折、左肩甲骨骨折、右尺骨骨折、右多発生肋骨骨折、腹腔内蔵器損傷の傷害を受けた。

(二) 原告の入院状況

(1) 平成二年一〇月一五日から平成三年一〇月一四日まで愛知医科大学付属病院(以下「愛知医大病院」という。)に入院した(第一次入院)。

(2) 平成三年一〇月一四日から平成四年七月二五日まで名古屋市身体障害者総合リハビリテーシヨンセンター(以下「リハビリセンター」という。)に入院した。

(3) 平成五年二月二六日から同年七月二七日まで愛知医大病院に入院した(第二次入院。甲一〇、甲一三の1ないし11)。

(4) 平成五年一二月六日から同月二七日まで愛知医大病院に入院した(第三次入院。甲二二の1、2、乙七)。

(三) 後遺症

原告は、平成四年二月二四日、症状固定の診断を受けたが、原告には第八胸髄以下知覚脱失、両下肢腱反射亢進、両足クローヌス陽性、両下肢完全麻痺、第七、八、九胸椎圧迫骨折、神経因性膀胱、便秘症、頸部、下肢等の醜状障害、胸腰椎部運動障害、足関節機能障害等の重大な後遺障害が残つた。

右後遺障害は、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表一級三号に該当する。

4  原告は、本件事故による損害につき、自賠責保険金二五〇〇万円、付添看護費用一一三万九六〇〇円、入院雑費三四万九三〇〇円、休業損害八八六万二二四〇円の合計三五三五万一一四〇円の支払を受けた。

二  争点及び当事者の主張

1  過失相殺

(一) 被告らの主張

原告は、本件交差点に進入するに際し、徐行義務に違反し、制限速度を大幅に超過して進行していたものである。また、原告は加害車両の後方から進行し、しかも加害車両は右折の際には方向指示器を点滅させていたのであるから、前方の交差点に右折車両が進入してくることは事前に確認できたはずであるのに、原告は十分に前方を注視していなかつたために、加害車両の発見が遅れたものである。

以上の点から、三割の過失相殺がなされるべきである。

(二) 原告の主張

本件交差点は、信号機により交通整理が行われており、徐行義務がない上、原告は、制限速度毎時五〇キロメートルの道路を右制限速度で進行していたものであるから、原告に徐行義務違反及び速度違反の過失はない。また、第二車線と第三車線の間にはバス停留所の建物があつたため、原告から見て左前方の見通しは悪く、加害車両の動静についての確認は困難であつたから、原告には前方不注視の過失もない。

以上のとおり、本件事故は、被告吉徳の一方的過失によつて生じたものというべきである。なお、平成三年七月一七日、本件事故により発生した物損につき、被告吉徳との間において被告吉徳の過失割合を一〇割とする内容の示談が成立しており、その際、人身損害についても右過失割合に基づき協議する旨の合意がされている。

2  原告の各損害額

原告は、原告の損害額は、入院付添看護費用一五〇万一五〇〇円、入院雑費六四万七〇〇〇円、休業損害六三六万八八〇六円、傷害慰謝料三二〇万円、将来の付添看護費用七五一六万〇七五四円、器具購入費二一八万五八一〇円、逸失利益一億一四七一万七一七五円、後遺障害慰謝料二四〇〇万円、治療費一七二万五九九六円(ただし、本人負担分)、家屋改造費二七七二万円、自動車改造費六万五〇〇〇円(ただし、本人負担分)、弁護士費用一〇〇〇万円である旨主張し、被告らは、右各損害額のうち、休業損害の額を認め、その余の損害額を争う。

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  前記一1の争いのない事実と証拠(甲一ないし甲七、乙四、乙六の1、2、原告本人、被告吉徳本人)を総合すると、以下の事実が認められる。

(一) 本件交差点東側の西進車道は三車線から成つており、道路中央寄りの第三車線は、バスレーンとなつていて、同車線は時間帯により路線バスの専用通行帯又は優先通行帯とされており、本件事故が発生した時間帯は優先通行帯となつていて、一般車両の通行も許容されていた。

本件交差点の東側には、別紙図面記載のとおり、西進車道の第二車線と第三車線との間にバス停留所の建物が存在していたため、東方から本件交差点に向けて第二車線を進行する車両と第三車線を進行する車両との間においては、相互の見通しが悪い状況にあつた。

また、本件交差点は信号機により交通整理が行われているが、東方から本件交差点に至る車両の北方への右折は禁止されていた。

そして、東西に通じる道路は最高速度が毎時五〇キロメートルに規制されていた。

(二) 被告吉徳は、加害車両を毎時二〇ないし三〇キロメートルの速度で運転して西進し、本件交差点を右折するため、バス停留所の建物の手前付近で第一車線から第二車線に進入し、右折合図のウインカーを点滅させながら別紙図面の〈1〉地点を通過するとともに減速し、同図面の〈2〉地点でハンドルを右に切つた。被告吉徳は、同図面の〈3〉地点で右折禁止の標識に気付き、急ブレーキをかけたが、加害車両は同図面の〈4〉地点で第三車線の車両の進行を妨げるようにして停車した。その直後に第三車線を進行してきた被害車両が加害車両の右側面後部に衝突した。

(三) 原告は、被害車両を運転して第三車線を西進し、対面信号が青色を表示していたためそのまま本件交差点を直進しようとしていたが、別紙図面の〈P〉地点ないしその少し西方で、第三車線に進入してきた加害車両を発見し、危険を感じて急ブレーキをかけたものの、同図面の〈×〉地点で被害車両を転倒させ、そのまま被害車両と共に路上を五・三メートル滑走して同図面の〈×〉地点で加害車両と衝突した。なお、本件事故直後の実況見分において、同図面記載のとおり、〈×〉'地点付近に至るまで被害車両の前輪によるスリツプ痕が約六・七メートル、後輪によるスリツプ痕が約五・二メートル確認された。

2  右によれば、原告は、信号機により交通整理が行われている本件交差点を対面信号の青色表示に従い直進しようとしていたものであり、原告に徐行義務があつたものということはできない。また、被告らは、原告が加害車両を発見して急ブレーキをかけた際に、約六メートルスリツプして転倒し、更に路上を五・三メートル滑走して加害車両に衝突していることを根拠に、原告が制限速度を大幅に超過していた旨を主張し、右認定によれば、被告ら主張の右被害車両の転倒、滑走の事故状況が裏付けられるが、右の事故状況から直ちに原告が毎時五〇キロメートルの制限速度を大幅に超過して進行していたことを推認することはできず、他に、原告が右制限速度を大幅に超過して進行していたことを認めるに足りる証拠はない。

また、右認定のとおり、本件交差点の東側においては、バス停留所の建物の存在により第二車線を進行する車両と第三車線を進行する車両との間では相互の見通しが悪い状況にある上、本件交差点が右折禁止とされており、一般的に第三車線の車両が第二車線からの右折車の存在に注意すべき立場にないことをも考慮すると、仮に原告が右折合図のウインカーを点滅させている加害車両の存在を実際よりも早く発見し得たとしても、直ちに原告に前方不注視の過失があつたものということはできない。

3  以上のとおり、被告らの過失相殺の主張は理由がなく、本件事故は、被告吉徳の一方的過失によつて生じたものといわれなければならない。

二  争点2について

1  傷害分

(一) 入院付添看護費用 一二二万八五〇〇円

前記一3の争いのない事実と証拠(甲三〇、乙六の1、2、証人小林智子、原告本人)を総合すると、原告の受けた傷害は、第七、八、九胸椎脱臼骨折、左足関節果部骨折、左肩甲骨骨折、右尺骨骨折、右多発性肋骨骨折、腹腔内臓器損傷という重篤なものであつたこと、愛知医大病院における第一次入院期間においては、同病院は完全看護制を採つていたものの、原告の看護としては十分ではなく、原告の家族と同病院側が相談の上、原告の妻が前半の約半年間は毎日夜間に付き添い、後半の約半年間は一日おきに昼間や夜間に付き添つていたこと、他に原告の母親や二人の妹等が付き添うこともあつたことが認められる、

右の事情に照らせば、右入院期間における近親者の付添看護費用は、前半の約半年間の日数に当たる一八二日分と後半の約半年間の二分の一の日数に当たる九一日分について、一日当たり四五〇〇円を要したものとみるのが相当であるから、その合計は一二二万八五〇〇円となる。

(二) 入院雑費 五四万七八〇〇円

前記一3の争いのない事実によれば、原告は、本件事故後症状固定日まで、愛知医大病院及びリハビリセンターに合計四九八日入院したことが認められ、その間の入院雑費は、一日当たり一一〇〇円と認めるのが相当であるから、その合計は五四万七八〇〇円となる。

(三) 休業損害 六三六万八八〇六円

争いがない。

(四) 慰謝料 二七〇万円

前記一3の争いのない事実及び証拠(甲三〇、乙六の1、2、証人小林智子、原告本人)によれば、原告は、前記のような傷害を被つて、本件事故当日の平成二年一〇月一五日から一年間愛知医大病院に入院して治療を受け、平成三年一〇月一四日、同病院の指示により、治療を受けながら社会復帰を目指すための訓練を実施するリハビリセンターに転院し、社会復帰に向けた基礎訓練を開始したこと、転院後二か月くらい経過してからは、訓練の一環として週末には自宅に帰宅するようになつていたことが認められる。

そして、原告の受傷の部位・程度、症状固定日までの入院期間と治療経過等に照らせば、傷害分の慰謝料の額は、二七〇万円と認めるのが相当である。

2  後遺障害分

(一) 将来の付添看護費用 一三四八万九二五三円

(1) 前記一3の争いのない事実及び証拠(甲八の4ないし6、甲九ないし甲一一、甲二一、甲二五、甲二九ないし甲三一、甲三三、甲三四、乙六の1、2、乙七、乙八、乙一三、乙一四、証人小林智子、原告本人)を総合すると、原告は、愛知医大病院の第一次入院中、本件事故の発生後一か月足らずで発生し始めた仙骨部等の褥瘡のため、三回に渡り手術を受けたこと、本件事故の発生後約半年で独力で車椅子による移動が可能となり、車椅子やベツドへの移動の訓練も行つたこと、更に、原告は、平成三年一〇月一四日にリハビリセンターへ転院した後、褥瘡の発生を予防するためのリハビリテーシヨンとして、プツシユアツプや歩行訓練等を順次行つたこと、同年一二月、妻と共に実家から市営の身体障害者用住居に転居したこと、平成四年二月二四日、前記のとおりの自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表一級三号に該当する重大な後遺障害を残して症状固定の診断を受けたものの、その後も神経因性膀胱、褥瘡等に対する治療を継続して受けたこと、同年五月ころ、原告は妻と別居状態となつたことなどからリハビリテーシヨンへの意欲を減退させ、リハビリセンターを休養しで右住居に一人で居住するようになり、同年七月二五日に医師の了解を得て正式に退院したこと、原告がリハビリセンターを休養するようになつてから、原告の母や妹二人がおよそ一日おきに原告宅に訪問し介護に当たつたこと、その後、原告は、右大転子部に褥瘡が発生し、平成五年二月二六日から同年七月二七日まで愛知医大病院へ第二次の入院をして手術を三回受け、同年一二月六日から同月二七日まで同病院へ第三次の入院をして手術を一回受け、その後しばらくは褥瘡が発生することはなかつたこと、平成六年当時、原告は体調を崩すと下痢を繰り返すが、自力でトイレへ行くことは可能であり、排尿については自己管理が可能であつたこと、食事や入浴も自力で行うことが可能であり、自動車の運転については名古屋市内であれば独力で行うことが可能になつていたこと、このように、本件後遺障害による原告の身体状況としては、胸部より下に障害が発生しており、特に両下肢は完全に麻痺しているものの、上肢を含む胸より上の部分には異常はなく、意識障害、知覚障害もなかつたこと、他方で、その当時も、原告の体調に応じて原告の母や妹が原告宅を訪問して原告の介護に当たつていたこと、原告は、平成七年三月ころに左足外果部に褥瘡が発生し、同年七月六日からリハビリセンターに治療のため通院をしていることが認められる。

(2) 右(1)で認定した各事実によれば、原告が主張するように、褥瘡の発生等を理由として将来に渡つて常時介護の必要性があるものということはできず、症状固定後二年間については褥瘡の発生等を考慮した近親者による付添介護の必要性が認められるものの、それ以降の平均余命期間については、平成六年当時、原告がある程度独力で日常生活を送ることが可能となつていたことにも照らし、掃除や洗濯等の生活補助の限度で近親者又は家政婦等職業人による付添介護の必要性が認められるというべきである。

そして、症状固定(平成四年二月二四日)後二年間の付添看護費用は、一日につき四五〇〇円を必要な金額と認めるのが相当である。また、それ以降の平均余命期間の付添看護費用については、原告は昭和三五年一一月二〇日生まれで症状固定時に三一歳であり(甲一一)、平均余命年数は四六・三三年であるから(平成四年簡易生命表)、症状固定後二年が経過した時から七七歳までの四四年間に渡り、週に二回の付添で年間五二週、一回につき五〇〇〇円の金額を限度として必要性を認めるのが相当である。なお、被告らは、原告は名古屋市の公的介護サービスを受けることが可能であり、これを利用すれば付添看護費用が不要となる旨主張するが、原告が終生に渡つて右公的介護サービスを利用することが可能であるとの保障はなく、しかも、証拠(乙一〇)及び弁論の全趣旨によれば、右公的介護サービスを受けるについては一定の制約があることが認められるから、原告に対しその利用を強制することはできず、したがつて、右公的介護サービスの存在を理由に将来の付添看護費用の賠償を否定するのは相当ではないといわなければならない。

そして、新ホフマン係数を用いて中間利息を控除し、将来の付添看護費用の本件事故当時(平成二年一〇月一五日)の現価を求めると、次の計算式のとおり、一三四八万九二五三円(円未満切り捨て。以下同じ。)となる。

4500×365×(3.5643-1.8614)=2,797,013

5000×2×52×(24.1263-3.5643)=10,692,240

2,797,013+10,692,240=13,489,253

(二) 器具購入費 二〇六万七九六三円

証拠(甲一五の1ないし4、甲一六の1ないし3、甲二一、甲二七、甲三九の1、2、原告本人)によれば、原告は、神経因性膀胱の後遺障害のため、排尿はカテーテル、クリーンコツトン等を用いた間欠的自己導尿法によつてきたこと、右は脊髄損傷者の尿路管理の方法として近時主流となつていること、カテーテルの単価は一箱一六八〇円であり、月に平均三箱を要すること、クリーンコツトンの単価は一箱五四〇円であり、月に平均五箱を要することが認められる。

そして、前記のとおり、症状固定時、原告の平均余命年数は四六・三三年であり、原告は、症状固定時から七七歳までの四六年間、右器具の購入費を要するといえるから、前同様に中間利息を控除すると、右費用の本件事故当時の現価は、次の計算式のとおり、二〇六万七九六三円となる。

(1680×3+540×5)×12×(24.1263-1.8614)=2,067,963

(三) 逸失利益 七五九七万〇三七八円

(1) 原告の後遺障害が自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表一級三号に該当することは当事者間に争いがなく、一級相当の後遺障害の場合、労働省労働局長通牒の労働能力喪失率表によれば、労働能力喪失率は一〇〇パーセントとされている。

しかし、前記2(一)(1)で認定したところによれば、原告は、本件事故の発生後約半年で独力で車椅子による移動ができるようになり、平成六年には名古屋市内であれば、独力で自動車の運転ができるようになつており、また、証拠(乙七、証人小林智子)によれば、原告は、平成五年九月には、妹や友人が同行していたとはいえ、ハワイ旅行に出向いていることが認められ、右によれば、原告が労働能力の全部を喪失しているものとは到底いえないものというべきである。

また、証拠(乙三、乙六の1、2、乙八、乙九、原告本人)によれば、原告は、リハビリセンター入院中には就業に向けた基礎訓練を終了しており、更にリハビリセンターでの訓練を再開した後に職業訓練校に通うなどしてより高度な就業能力を習得することが可能であることが認められる。

以上の諸事情を総合考慮すると、原告は、症状固定時の年齢である三一歳から就労可能な六七歳までの三六年間、その労働能力の七九パーセントを喪失したものと認めるのが相当である。

(2) また、証拠(甲一八の1、2、甲三〇、原告本人)によれば、原告は、平成二年五月一日、コンビニエンスストアー「ミニストツプ神田店」を開業し、同日から同年一二月末日までの所得金額は四二七万一五九二円であつたこと、本件事故後は、原告の妻が経営を手伝い、新しい店長を入れたりしたものの、経営が悪化し、右店舗は平成四年八月末で閉店したことが認められ、右事実によれば、原告は、前記三六年間を通じて、少なくとも平成四年賃金センサス第一巻第一表・産業計・企業規模計・男子労働者・学歴計の三〇歳から三四歳までの年収額五〇三万二五〇〇円(金額は公知の事実)を得ることができたと推認することができるので、右金額を基礎収入として逸失利益を算定するのが相当である。

なお、原告は、原告が平成二年に右店舗の経営により得ていた右所得金額からすると、同センサスにおける三一歳以上の男子労働者の年齢階層別平均賃金の平均額である五六五万八二〇〇円を基礎とすべき旨を主張するが、原告の右店舗の経営実績は一年足らずのものに過ぎず、また、そもそも右店舗の経営成績は時の経済状況等に左右されやすいものといえ、現に本件事故による原告の負傷の影響があつたとしても、平成四年八月末で経営の悪化により閉店に至つていることにも照らすと、この点の原告の主張は採用することができない。

(3) そして、新ホフマン係数を用いて中間利息を控除し、原告の逸失利益の本件事故当時の現価を求めると、次の計算式のとおり、七五九七万〇三七八円となる。

5,032,500×0.79×(20.9702-1.8614)=75,970,378

(四) 慰謝料 二一〇〇万円

原告の後遺障害の内容、程度等に照らすと、後遺障害分の慰謝料の額は、二一〇〇万円と認めるのが相当である。

3  治療費 三〇万三八二二円

(一) 証拠(甲一二の1ないし6、原告本人)によれば、原告は、リハビリセンター入院中の治療費として、合計一〇万八八二二円を支払つたことが認められる。

(二) 証拠(甲一三の1ないし11、原告本人)によれば、原告は、愛知医大病院の第二次入院中の治療費として、合計四万一一七〇円を支払つたことが認められる。

(三) 証拠(甲二二の1、2、原告本人)によれば、原告は、愛知医大病院の第三次入院中、個室での治療を受け、合計一四万八七一〇円を支払つたことが認められ、一連の治療経過に照らし、右支出も相当なものということができる。

(四) 証拠(甲一四、原告本人)によれば、原告は、平成五年八月二六日、愛知医大病院へ通院し、ガーゼやテープ等の褥瘡治療用の材料費として、五一二〇円を支払つたことが認められる。

ところで、原告は、右支出額を一か月当たりの必要額とし、平成五年七月時点の平均余命を基にして四五年間分の費用を請求しているが、前記2(一)(2)で既に述べたとおり、症状固定後二年間に限り、褥瘡の発生を考慮して損害額を算定すべきであるから、それ以降の期間における褥瘡治療用の材料費については本件事故と相当因果関係のある損害ということはできない。そして、原告が右通院時に褥瘡治療用の材料費として五一二〇円を超えて支出したことを認めるに足りる証拠はないから、結局、右材料費としては右支出額に限り損害として認定することができる。

(五) 原告の本人負担分の治療費としては、右(一)ないし(四)のとおり、合計三〇万三八二二円の限度で認めるのが相当である。

4  家屋改造費 五二〇万円

証拠(甲一、乙六の1、2、乙一二、乙一九の1ないし3、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成三年一二月、名古屋市千種区所在の実家から同市北区所在の市営の身体障害者用に転居したものであるが、実家の既存建物を増改築した上で再び実家において生活することを望んでいること、被告提出の見積書においては、原告の実家と同じ二階建てでほぼ同程度の延べ床面積の一般住居を身障者に使用し易い住宅に改造した場合、総額約五二〇万円を要するとされていること、右見積りにおいては、廊下幅を広げる等の構造に大幅な変更を要する工事は除外されているものの、一階の和室を洋室に変更した上で総合的な介護・リハビリ機能を備えたベッドを設置し、階段にいす式昇降機を設置するなどの改造が予定されていることが認められる。

そして、前記認定の原告の後遺障害の内容、程度等に照らすと、右見積りで予定されている程度の改造については、必要性が認められるものというべきであるから、五二〇万円をもつて家屋改造費相当の損害が発生したものと認めるのが相当であり、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

原告は家屋改造費として二七七二万円を要すると主張し、証拠(甲三五、甲四〇)によれば、原告提出の見積書においては、原告の実家を増改築した場合、右金額を要するとされているが、右見積書による改造は、従前店舗として使用していた一階部分を居室に変更することやエレベーターを新たに設置することなど相当な範囲を超えるものといわざるを得ない大規模な工事を含むものであることが認められ、本件事故と右改造との間に相当因果関係を認めることはできないから、原告の右主張を採用することはできない。

ところで、被告らは、原告が現在市営の身体障害者用住居に居住していることなどを根拠として、右家屋改造費についての損害の発生を否定するが、原告が実家において生活することを望んでいることは前記のとおりであり、被告主張の右事情は、実家の改造費用をもつて本件事故と相当因果関係のある損害とすることを妨げるものではないというべきであるから、被告らの右主張は、失当である。

5  自動車改造費 六万五〇〇〇円

証拠(甲一七、原告本人)によれば、原告は、本件事故後、価格一六万五〇〇〇円の手動のアクセルブレーキ(APドライブシステム)を自己の車両に取り付け、市からの補助金一〇万円を除き、六万五〇〇〇円を自己負担したことが認められる。

6  以上によれば、原告の損害賠償請求権の金額は、一億二八九四万一五二二円となる。

三  損害の填補

原告が被告らから、自賠責保険の後遺障害一級相当の保険金として二五〇〇万円の支払を受けていること、他に、付添看護費用として一一三万九六〇〇円、入院雑費として三四万九三〇〇円、休業損害として八八六万二二四〇円の支払を受けていることは当事者間に争いがなく、右合計三五三五万一一四〇円の限度で前記二で認定した原告の損害が填補されたものと認められるから、右金額を控除すると、被告らが原告に対して連帯して賠償すべき金額は、九三五九万〇三八二円となる。

四  弁護士費用

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、四五〇万円と認めるのが相当である。

(裁判官 大谷禎男 安間雅夫 土屋信)

交通事故現場見取図

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